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奥歯の「近心傾斜」が残ったまま矯正すると起きるトラブルとは?

医院ブログ 2025/12/07
名古屋西矯正歯科クリニック 平澤建太朗

矯正治療では、前歯の並びや口元の変化に目が行きがちですが、
実は見えない “奥歯の角度” が治療の成功に大きな影響を与えています。

その中でも特に重要なのが、
奥歯の「近心傾斜」 という問題。

患者さんからはあまり聞き慣れない言葉ですが、
この近心傾斜が残ったまま矯正を進めてしまうと、

  • 噛み合わせの安定性
  • 歯の動き
  • 顔のバランス
  • 後戻り
    に大きな悪影響が出ることがあります。

この記事では、
「近心傾斜って何?」という初歩から、
「残ったままだとどんなトラブルが起こるのか?」までを、
患者さんにも分かるように丁寧に解説します。

矯正中の方、これから始める方に必ず役立つ内容です。


■ 1. 奥歯の「近心傾斜」とは?

まず、専門用語をわかりやすく説明します。

近心傾斜=奥歯が“前の方に倒れ込んでいる状態”のこと。

本来、奥歯は垂直に近い角度で生えているのが理想です。
しかし、

  • 歯が抜けたまま放置して奥歯が倒れてくる
  • 叢生(ガタガタ)でスペースが足りず傾く
  • 小児期の噛み癖や食習慣
  • 親知らずの圧迫
    などが原因で、奥歯が前方向へ倒れ込んでしまうことがあります。

この“倒れたままの奥歯”を放置して矯正すると、
前歯の見た目は整っても、見えない部分でトラブルが起こります。

■ 2. 奥歯の近心傾斜を放置すると何が起きる?

奥歯の角度がズレていると、矯正治療にさまざまな悪影響があります。
以下は実際の臨床で非常によく見られるトラブルです。

◆ ① 噛み合わせが安定せず、治療後にズレやすい

奥歯は噛み合わせの“土台”です。

家を建てるときの土台が傾いていると、
上の部分をどれだけ整えてもグラグラするのと同じで、
正しい噛み合わせを作ることができません。

近心傾斜が残っていると、

  • 噛み合わせが深くなる
  • 片側だけ強く当たる
  • 顎が安定しない
    など、治療後の後戻りに直結します。

◆ ② 前歯が予定通りに動かない・戻ってしまう

奥歯が前に倒れているということは、
アーチ(歯列)全体が前へ押されている状態です。

そのため、

  • 前歯を引っ込めたいのにスペースができない
  • 引っ込めても奥歯が前へ倒れる力で戻る
    など、前歯の動きに強いブレーキがかかります。

「前歯だけ動かしても戻る」典型ケースです。

◆ ③ 見た目よりも“噛めない噛み合わせ”になる

奥歯の角度がズレたまま前歯が綺麗に並ぶと、
見た目は良くても、
実際には噛めない噛み合わせになることがあります。

よくある症状:

  • 前歯だけ当たって奥歯が浮く
  • 左右どちらかだけ噛むようになる
  • 顎関節に負担がかかる
  • 食事で噛みにくい感じが続く

これは“噛み合わせの高さ(バーティカル)”が乱れるため起こります。

◆ ④ 奥歯の歯周病リスクが上がる

奥歯が倒れていると、

  • 歯と歯の間に汚れが溜まりやすい
  • 噛む力の方向が不自然
  • 歯根が一部に強く負担する
    という問題が起こります。

結果として、歯周病や歯の根の吸収など、
歯の寿命に関わるリスクが高まります。

◆ ⑤ 正中(真ん中のライン)が合わない

奥歯の位置が片側だけ前に倒れていると、
その側の歯列が全体的に前へ押し出され、
正中が左右どちらかにずれて見えることがあります。

正中ズレは前歯の問題と思われがちですが、
実は“奥歯の角度”が原因であることが非常に多いのです。


■ 3. 近心傾斜を治す治療はなぜ難しい?

奥歯をまっすぐに立てる治療は、矯正治療の中でも難度が高い工程です。

◆ ① 奥歯は骨に深く埋まっていて動きにくい

前歯と違い、奥歯は頑丈で移動に力が必要です。

◆ ② 歯を“回転+傾き改善+前後移動”させる必要がある

動かす方向が1つではなく、複雑なコントロールが必要。

◆ ③ マウスピース矯正では難しい場合がある

角度の大きい倒れを改善するには、

  • ワイヤー
  • スクリュー(ミニインプラント)
    を併用することが多いです。

マウスピース単独では限界がでるケースも。

◆ ④ 放置期間が長いほど改善が難しくなる

長期間倒れた状態だった奥歯は、
周囲の骨が“倒れた状態で固まっている”ため動きにくくなります。


■ 5. 近心傾斜を防ぐために患者ができること

近心傾斜は自然に治ることはなく、放置すると悪化します。
矯正中・矯正前の方ができる予防策はこちら:

✔ 親知らずが押して痛い → 早めに相談

✔ 片側噛みをしない(左右で均等に)

✔ 奥歯の痛みや違和感は放置しない

✔ 歯が抜けたまま放置しない(倒れてくる)

✔ 正しい姿勢を保つ(歯の高さの安定に影響)

奥歯は“噛む力の要”のため、意識して守ることが重要です。

■ まとめ

奥歯の「近心傾斜」は、
見た目では分かりにくい“隠れた矯正の敵” です。

この傾斜が残ったまま前歯だけきれいにしても、

  • 噛めない
  • 後戻りする
  • 正中が合わない
  • 顎が疲れやすい
    など、治療の質が下がってしまいます。

矯正治療を成功させるカギは、
見えない奥歯をどれだけ正しく整えられるか。

気になる場合は、
奥歯の角度まで丁寧に診断してくれる矯正医に相談することがおすすめです。


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参考文献

・Proffit WR, Contemporary Orthodontics(臼歯の傾斜と噛み合わせの安定性)
・Graber LW, Orthodontics: Current Principles and Techniques
・日本矯正歯科学会:成人矯正と臼歯コントロールのガイドライン

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